相続というと、家などの財産を受け継ぐことだと思いますよね。
「財産をもらえることになってラッキー」
「財産をめぐって子ども同士のあいだで争いが起こる」
そんなイメージを相続に対してもっている方も少なくないと思います。
でも、相続で受け継ぐことになるのは、家などのプラスの財産だけではありません。相続では、親がしていた借金などのマイナスの財産(負の遺産)も受け継ぐことになるんです。マイナスの財産を受け継ぐことになる場合、どうしたらいいのか迷われる方がたくさんいます。
そこで、この記事では、マイナスの財産について、徹底解説!
どんなものがマイナスの財産になるのか、必ず相続しなければならないのか、借金はどう調べればいいのか、といった数々の疑問点にお答えします。
借金を相続する際の基礎知識
借金を相続する場合にまず知っておきたいのは、借金を含めたマイナスの財産(負の遺産)とは何かという点です。
そこでまずはマイナスの財産(負の遺産)とはどういうものかを以下の3点に分けて解説していきます。
借金相続の対応策①
マイナスの財産とは負債や債務のこと
借金を相続するときの基礎知識の1つ目は、そもそもマイナスの財産とは何か、どんなものがマイナスの財産にあたるのかについてです。
マイナスの財産とは、被相続人がしていた借金などの負債・債務のことです。「負の遺産」「マイナスの資産」「消極財産」など、さまざまな呼び名があります。
具体的には、住宅ローン・カードローン・自動車ローンをはじめ、携帯電話の分割払いなどの債務も対象になります。さらに亡くなった方が未払いだった家賃・公共料金・税金も含まれます。持ち家がある場合、固定資産税などもマイナスの財産になります。病院や介護施設の医療費の支払いなどもマイナスの財産に。そして、前に挙げたすべての負債・債務がマイナスの財産として相続対象です。
つまり、原則として亡くなった人が負うべき全ての負債と債務が相続対象で且つマイナスの財産です。なお、マイナスの財産の反対はプラスの財産。「プラスの遺産」「積極財産」などとも言います。
一般にイメージされる相続財産は、不動産・株式・預貯金などが代表例です。
マイナスの財産とプラスの財産の内容について、表にまとめましたので、参考にしてください。
財産の種類 | 内容 |
---|---|
マイナスの財産 |
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プラスの財産 |
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借金相続の対応策②
マイナスの財産には保証債務が含まれる
借金を相続するときの基礎知識の2つ目は、マイナスの財産には、保証債務も含まれるという点です。
保証債務というのは、誰かの家賃や借金の保証人になっている場合に生じる義務のこと。具体的には、誰かの家賃や借金の保証人になっていた場合、その人が家賃や借金が払えなくなった場合に、家賃や借金を肩代わりして支払わなければならないという債務(義務)です。
こうした保証債務も、マイナスの財産として相続の対象です。注意したいのは、家賃や借金などの保証債務は誰かが問題なく支払いを続けていた場合は、金銭的な負担が生じない点です。支払いや返済の滞納などが生じてはじめて、金銭的な負担が生じますので、リスクに気づかないまま相続してしまった、ということが起きることがあります。
借金相続の対応策③
マイナスの財産は相続不要
借金を相続するときの基礎知識の3つ目は、必ずしも相続する必要はない、という点です。
亡くなった人に借金や税金の未払いなどのマイナスの財産があった場合、相続する人は必ずしもそれを相続する必要はありません。
もしマイナスの財産が多くてプラスの財産が少ない場合、相続人は負担が増えるばかりで困りますよね。借金の返済額が多い場合など、相続をしてしまうと相続人の生活が苦しくなります。
そこで、法はマイナスの財産を相続しない方法を用意しています。相続放棄・限定承認などの仕組みです。借金や税金の未払いなど、マイナスの財産の規模が大きそうな場合には相続放棄や限定承認の活用を検討するのが解決策となります。
借金を相続して困らないために
借金を相続する場合の基礎知識を3点に分けて解説してきました。
まとめますと、借金を相続する場合に問題になるマイナスの財産は、借入金などの負債・債務のことで、原則的にあらゆる負債・債務が相続の対象になります。
そして、借金などのマイナスの財産の相続を避けるために、相続放棄や限定承認といった仕組みが存在していることをお伝えしてきました。
では、マイナスの財産の相続を避ける相続放棄や限定承認という仕組みは、どのようにしたら活用できるのでしょうか?
次はその点について見ていきましょう。
借金を相続しない3つの手段
借金などのマイナスの財産を相続しない方法としては、大きく分けると、以下の3つがあります。
借金を相続しない3つの手段
手段 | 概要 |
---|---|
①相続放棄 | 遺産の相続そのものを放棄すること |
②限定承認 | 遺産の一部だけを相続すること |
③相続分の譲渡 | 遺産の持分割合を移転すること |
以下で、各方法の注意点も含めて、詳しく説明しますね。
借金を相続しない手段
①相続放棄
相続放棄とは、マイナスの財産をはじめとしたあらゆる財産の相続を放棄する手続きです。気をつける点は、相続放棄はマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も放棄することになります。良いとこどりはできませんので気を付けてください。
この相続放棄は、相続人個人が単独で手続きできるものです。
相続放棄は、自分に相続する権利があることを知ったとき(通常は故人の死亡日)から3カ月以内に手続きしなければなりません。この3カ月を熟慮期間と呼び、家庭裁判所に延長申請ができます。相続放棄で注意したいのは、相続を知ったときから、相続放棄の手続きを終えるまでのあいだに、少しでも相続財産を自分のために使用した場合、その相続人は相続放棄ができなくなる点です。
具体的には、故人の預貯金口座から自分の生活費を引き出して使用してしまった場合などです。
加えて注意したいのは、一度でも相続放棄をすると相続人ではなくなる点です。後から遺産が追加で発見されても相続権は主張できません。また、相続放棄をすると相続の順位が変わる点にも注意が必要です。
たとえば、父の財産について母(配偶者)と子どもが相続放棄すると、相続順位が変わり、祖父母が相続人になります。借金などのマイナスの財産が多かった場合、自分一人が相続放棄しただけでは解決にならない可能性があります。
相続放棄の注意点
- すべての財産が相続できなくなる
- 原則として取消しができない
- 順位変更で、相続の権利がほかの親族に移動する
- 相続財産を自分のために使用すると、相続放棄できなくなる
借金を相続しない手段
②限定承認
限定承認とは、一定の範囲内で財産を相続する手続きです。
たとえば、1,000万円の不動産と2,000万円の借金が遺産として残されていた場合、1,000万円分だけ不動産と借金を相続する手続きのことです。
限定承認をすると、相続をしたあとに新たにプラスの財産やマイナスの財産が判明しても相続人は一定の範囲内で相続することができます。限定承認は、相続放棄とちがって、相続人単独では手続きできません。相続人全員で決める必要があります。
限定承認ができるのは、自分に相続の権利があることを知ったとき(通常は被相続人の死亡日)から3カ月以内です。この熟慮期間のあいだに決められないときなどには家庭裁判所に延長の申請ができます。
限定承認の注意点としては、税負担が増える可能性があることが挙げられます。限定承認をした場合、譲渡所得税と呼ばれる税金を納税する必要が出てきたり、相続税の減税制度(小規模宅地等の特例)が利用できなくなることがあります。
また、すべての借金を背負わないことにする相続放棄とちがって、借金の一部は相続する扱いになりますので、債務を整理する必要が生じることにも気をつけましょう。
限定承認の注意点
- 相続人全員の同意が必要
- 原則として取消し不可
- 税負担(譲渡所得税など)が増える可能性がある
- 債務を精算する手間が出てくる
借金を相続しない手段
③相続分の譲渡
相続分の譲渡とは、相続人の権利である相続割合(持分割合)を、別の相続人などに移転させることです。
相続分の譲渡を行うと、借金などのマイナスの財産を別の相続人などに移転させることができます。
相続分の譲渡は、相続人ではない第三者に対しても可能です。
相続分の譲渡の注意点としては、債権者には対抗できないと考えられている点が挙げられます。
相続分を別の相続人などに譲渡したとしても、もし、債権者から請求があった場合、譲渡した人(譲渡人)のほうが借金返済をしなければならなくなる可能性があるのです。
また、相続分を譲渡すると、第三者が遺産分割協議に加わることになりますから、ほかの相続人にとっては、不安や負担が増える可能性がありますので、気をつけましょう。
相続分の譲渡の注意点
- 借金の返済請求を拒めない
- 第三者が遺産分割協議に参加するので、ほかの相続人に不安や負担を与えるおそれがある
借金を相続しないという決断について
これまで、借金を相続しない方法3選を紹介してきました。
でも、相続放棄や限定承認という方法があることはわかっても、そうしたほうがいいのかは簡単に判断できませんよね。
実際に「借金があることを知らなかった場合は、どうしたらいいの?」という声をよく聞きます。
そこで、次節は、借金を相続するかしないかを決めるときのポイントをお伝えいたします!
借金を相続するかしないかの見極めポイント5点
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントを以下の5つの疑問ごとに、お伝えいたします。
相続の有無の見極めポイント
- ポイント①借金の存在を知らなかったら?
- ポイント②相続人が借金の保証人だった場合は?
- ポイント③相続手続きが終わる前に借金の返済を迫られたら?
- ポイント④住宅ローンはどうなる?
- ポイント⑤借金がどれだけあるかわからないときは?
ポイント①借金の存在を知らなかったら?
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントの1つ目は、借金があることを知らなかった場合についてです。
借金があることを知らないまま相続をしたものの、しばらく経ってから、借金の存在が明らかになることがあります。相続放棄や限定承認の期限である3カ月は過ぎてしまっています。
このような場合、借金を背負わなければならないのでしょうか?
実は、借金があることを知らないまま相続をしたが、あとから借金の存在に気づいたというケースには過去に裁判例があります。
判例によると、熟慮期間の3カ月を過ぎていても、納得できるような理由や事情があれば、相続放棄が認められるんです。
そこで、3カ月という期限を過ぎた後に、借金の存在に気づいた場合は、相談窓口に相談するのがオススメです。
ポイント②相続人が借金の保証人だった場合は?
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントの2つ目は、相続人が借金の保証人だった場合についてです。
たとえば、借金をしていた父(被相続人)がいて、その保証人に子(相続人)がなっていて、その子が父の遺産を相続するようなケースです。
この場合は、相続放棄や限定承認という手法だけでは、借金返済の必要性はなくなりません。
なぜかというと、保証人の責任(借金返済の義務)は、父が亡くなったからといって、消滅しないからです。
むしろ、借金をしていた父が亡くなったからこそ、保証人の責任(借金返済の義務)を果たさなければならないことになるのです。
もし、保証人が借金の返済ができないようであるならば、債務整理などの手続きをとる必要がありますので、このような場合は、相談窓口に相談してみるのがいいでしょう。
ポイント③借金の返済を迫られたら?
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントの3つ目は、被相続人の借金返済を求められた場合についての対処法です。
原則的には、相続が終わるまで、払わない方がいいでしょう。
故人の代わりに借金の返済をしてしまうと、相続を認めたことになり、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があります。
もし、相続の手続きが終わらない段階で、返済を急がなくてはいけない場合は、相談窓口に相談するのがいいでしょう。
ポイント④住宅ローンはどうなる?
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントの4つ目は、住宅ローンの残債が残っている場合です。
住宅ローンも原則的には相続人が支払う必要がありますが、実際には、そのような結果にならない場合が多いです。
なぜかというと、住宅ローンを契約している人は、団体信用生命保険という保険に同時に加入している場合が多いからです。
団体信用生命保険とは、住宅ローンを契約している人が、残債が残っているまま死亡した場合に、生命保険会社が残りのローン支払いを肩代わりしてくれる仕組みです。
ただ、住宅ローンの支払いを長期にわたって滞納している場合など、団体信用生命保険が解約扱いになるケースもありますので、注意が必要です。
住宅ローン契約をした金融機関に確認するとよいでしょう。
ポイント⑤借金がどれだけあるかわからないときは?
借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントの5つ目は、借金がどれだけあるかわからないときの場合についてです。
借金がどれだけあるかわからない場合は、まずは借金がどれだけあるかを調査することが解決策になります。
具体的には、まずは被相続人の通帳を確認することで判断しましょう。
引き落とし記録などから、金融機関名やクレジット会社名・消費者金融会社名などがわかりますので、そこに問い合わせるというのが基本的なパターンになります。
返済が遅れている場合は、借入れ先から電話やはがきなどで連絡がきますから、そこからもわかります。
また、遺品の調査をすることもポイントです。
借用証や金銭消費貸借契約書といった書類が見つかることがありますので、こちらもチェックしましょう。
なお、金融機関などからの借金については、下記の信用情報機関を利用して調査することができます。
相続人であれば、情報開示を請求できますので、問い合わせてみましょう。
問い合わせ先 | 事業者名 |
---|---|
銀行 | 一般社団法人全国銀行個人信用情報センター |
クレジット会社 | 株式会社シー・アイ・シー(CIC) |
消費者金融 | 株式会社日本信用情報機構(JICC) |
まとめ
まとめると、ポイントは以下になります。
借金を相続するかを決めるポイント5点
借金の存在を知らなかったら? | 相続放棄できる場合あり。放棄が認められるかどうかについては確認が必要。 |
---|---|
相続人が借金の保証人だった場合は? | 相続放棄しても借金の返済義務あり。返済が難しい場合は、債務整理が必要なことも。 |
相続手続きが終わる前に借金の返済を迫られたら? | 相続が終わるまで返済しないのがベター。返済を急がざるをえない場合は、相談窓口に相談を。 |
住宅ローンはどうなる? | 返済不要の場合が多い。金融機関に返済の必要があるか確認する。 |
借金がどれだけあるかわからないときは? | 通帳などから判明した借入先に照会する。 |
終わりに
これまで借金を相続するか相続しないかを決めるときに知っておきたいポイントを5つのケースに分けて、ご紹介しておきました。
とくに注意していただきたいのは、どれだけ借金があるかわからない場合です。
どれだけ借金があるかわからないままに相続してしまうと、あとで借金が判明して返済しなければならなくなるおそれがあります。
かといって、相続前に借金の調査をするにしても負担がかかりますし、相続放棄には3カ月の期限があることも忘れられません。スピーディな対処が求められるのです。
そんなにときに力になるのが私たち相談窓口がございます。ご相談は無料です。後悔を避けるためにも、判断に困った場合には、ぜひお早めにご相談ください。
この記事の著者
相続のお悩み総合相談室 代表行政書士 彦田純一
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